憎めないラーメン屋

「大岩亭行こうぜ！」

去年の秋頃、月曜から夜更かしを見た福原は

バイトの野郎達にそう呼びかけた。

しかしみな忙しく、予定が合わないのもあり

なかなか食べにはいけなかった。

それでも大岩亭の存在を忘れた日など1日もない。

それから半年以上が経ち、その日は訪れた。

雲の合間から太陽が覗く昼前、福原ら一行は

一路、大岩亭のある愛知県を目指した。

大岩亭、それは愛知県にあるラーメン屋。

店主のキャラがラーメンより濃く、

テレビで取り上げられたことから一躍有名に。

特に湯切りのときに響かせる奇声がすごいらしい。

そう、これを聞くために

・レンタカー 14000円

・高速片道 4000円

・メンバー唯一の免許所持者としての覚悟

これらを用意して来たのである。

当然、胸が高鳴らないはずもなく

一行は伊勢湾岸自動車道を颯爽と駆け抜けた。

颯爽と駆け抜けていたのにもかかわらず、

ICを降りた瞬間

「スープはあるのか」「店主はいるのか」

という不安が押し寄せてくる。

「ちょっと電話して確認してみる？」

心配性の福原がそう提案し、電話をすることに。

「電話番号ないぃ〜」

後部座席から聞こえてくる声。

電話番号がないとはどういうことか。

スープの有無も、店主の出勤情報も、

現地に行かないと分からないというのか。

車を走らせること2時間、大岩亭に着いた。

着いたのにもかかわらず、後部座席から

またしてもとんでもない言葉が聞こえて来た。

「おい！閉まってんぞ！！」

「アホかお前、んなわけないやろ！」

そう言いながらとりあえず横目で確認する。

久しぶりの高速道路に肩の力入りっぱなしで頑張ったのに、

世間でいう“シャッター”というものが、

どうやらこちらを見ている。

「ちょっ、ちょっと待って。」

心の中では湯切りがこだまする。

(((あぁ〜〜いっ)))

(((あぁ〜〜いっ)))

………

 ちょっと楽しくなってきそうなところで

心の声が言う。

（いや、そんなんいうてる場合ちゃうで）

ちょっと笑いそうになるのをこらえながら、

車を転回させ、向かいの松屋に車を停める。

遠目に見ても分かるのだが、

シャッターには張り紙がしてある。

嫌な予感とはまさにこのことか。

スープ終了？昼の部が終わっただけ？？

はたまた閉業？？？

様々な憶測を胸に秘めながら

恐る恐るその張り紙に目をやる。

「ごめんなさい〜〜。

5/9(火)お休みしま〜〜す。by 店主」

大岩亭は、店主は、、

その姿を見せてはくれなかった。

あまりにも砕けた文面に

怒りとかそんなもんじゃなくて

とにかく腹を抱えて笑った。

なぜか憎めなかったのだ。

このたった三行の貼り紙から、

店主の人柄を見た気がしたからだ。

これがもし

「申し訳ございません。」

から始まるような典型的な文章だったら、

本当にショックだったに違いない。

（お祈りメールでいうところの「厳正なる選考の結果、貴意に添いかねる…」みたいな）

しかしこの三行を、

まるで“有名人の直筆サイン”のような感覚で

受け入れることができたおかげで、

「何が大岩亭じゃ！！(笑)」

と、名前に八つ当たりするしかなくなったのだ。

大岩さん（なんかどうか知らんけど）、

また行きます、、、

次は湯切り、見せてください。

以下、大岩亭以降に訪れたお店。

どうやら愛知県に来ること自体、

まだ早かったみたい。

あぁ〜〜いっ

おわり