230円

 

「よ、40円のお返しです」

 

9番ピッチャーにホームラン打たれた時の

9番ピッチャーみたいな、

 

 

 

京都で道聞かれた

千葉在住の観光客みたいな、

 

 

 

寝てたやつに答えさせたら

まさかの正解を当てられた

怒る気満々だった先生みたいな、

 

 

 

 

 

とにかくそんな「困った表情」の

コンビニ店員がいたらしい。

 

 

 

理由はいたってシンプルで

 

 

180円というお会計に対し

 

 

 

 

 

 

220円

 

 

 

という訳のわからない金額を

 

 

 

50円が欲しそうな顔をした大学生が

自信満々に提示してきたからだ。

 

(ごめん。でも言い訳させて欲しい)

 

 

彼はこれがデビュー戦だった。

この「50円が欲しいんです」会計のね。

(そんな名前なのかどうかは知らないが)

 

 

彼のこの会計にかける思いは熱かった。

 

試合前の彼のインタビューを聞いてみたい。

 

「最近バイトでお会計をするようになったんですよ。そうするとね、その50円...会計をする人が多くてね、かっこええなぁと、僕もやってみたいなぁと、それで今回180円級でエントリーしたんですよ。」

 

彼は続けた。

 

 

「今回僕は、なんとしても50円を受け取って、50円玉の穴から店員の顔を覗き込んでやります。」

 

意気込みは良かった。

 

 

セブンイレブンという会場も

自分を応援するファンで埋め尽くされ

 

(ノーゲストでした)

 

 

アイスコーヒーのLを手に、、、

 

取、、、

 

っ、、、

 

 

はい。

 

敗因がどこにあるかと言われれば

ここです。

 

恥ずかしながら

氷たっぷりのアイスコーヒーを買って

自分で入れるあれが初めてで、

 

「なんやこれ。先入れるんか?」

 

 

「入れる前に先お会計するんか?」

 

 

自分の意識がそっちに行ったまま、

 

(レジに)リングインしてしまった。

 

 

「180円です」って言われた時、

 

ついに自分が50円貰う時が来たんだと

実感して泣きそうになった。

 

ここまで生きてきてよかったなぁって。

 

心の中ではこんなお手紙を読んでいました。

 

「お父さんお母さん。

もう僕は、180円に対して200円を出して20円を貰うような、そんなセオリー通りの人間から卒業することにします。

 

今までありが、、、」

 

次の瞬間、頭が真っ白になった。

 

 

まるで

 

千日前線に乗り換えるには

谷町何丁目ですか?」って聞かれて

 

 

「やばい。4か6か9、、どれや、、、」

 

ってなって

 

4と6と9が頭の中でこんがらがるみたいに

 

 

180円に対する支払い金額を

 

「220、230、240、、どれや、、、」

 

ってなって

 

 

20と30と40が頭の中で

洗濯機が一番うるさい時みたいに

グルグル回り始めた。

 

そして頭の中でど文系が出した答えが

 

 

 

220円でした。

 

 

店員から返ってくる40円たちは

 

あと1枚、

いや、

あと1人を探してるように見えました。

 

とにかく恥ずかしくなって

一刻も早くこの店を出たくなって

(何がいい気分じゃ)

 

 

引きつった笑顔で小銭入れに放り込んだ。

 

 

今頃小銭入れで悪口言われてるかな。

 

 

 

「こいつホンマセンスないな」って。

 

 

 

 

 

しかもコーヒーってこんな苦かったっけ。

 

 

これが負けた者が味わう苦汁ってやつか……

 

 

(恥ずかしすぎて砂糖とミルク取るの忘れた)

 

 

 

 

おわり。